八坂神社の南門から続く通りでは、観光客を乗せた人力車やガイドブックを手に散策する観光客がのんびり行き交う姿が目に映ります。そんな通りを南に進むとほどなく右手に「美濃幸」の看板が…。暖簾をくぐると、打ち水された石畳の細い路地がつづき、その奥には大正の初期に建てられたしっとりと落ち着いた数寄屋造りの建物がありました。
京都の茶人からも愛される「美濃幸」は茶懐石料理を提供するお店です。夜は本格的な茶懐石のお料理を出されていますが、お昼の時間帯に気軽に茶懐石のエッセンスを楽しめるメニューがあると伺いました。野点の際に使うお茶道具一式を詰めたお茶箱をお弁当箱に見立てたという「茶箱弁当」です。
初夏の日差しが新緑に映え、きらきらとまぶしい中庭の見えるお部屋で茶箱弁当を注文。お部屋の掛け軸やお花をぼんやり眺めたり、お庭の池の端で亀が遊んでいるのに目を留めたりと、ゆったりと心地よい時間が流れます。
さあ、目の前にお弁当が。お茶箱の蓋を開けると、掛合(かけご)には、サーモン、鱧の子の煮凍り、枝豆、鮎の塩焼きが彩りも涼しげに盛り付けられてあります。さらに下段には、茶巾筒に向付(むこうづけ)の梅肉醤油と合わせる鱧の一枚落とし、棗(なつめ)にはおみそ汁が、振出(ふりだし)には冬瓜饅頭のお料理が入っていました。抹茶茶碗には、初夏の香りの新生姜めしと、茶箱のお道具一つひとつに、茶懐石の趣を盛り込んだ料理が合わせてありました。また強肴には京都の夏野菜である加茂茄子田楽、水物にはさっぱりとした味わいの美生柑(みしょうかん)ゼリーがそえられます。
今回の献立は京都の初夏のメニューですが、盛夏、晩夏と旬の食材の変化とともにお料理の内容にも季節感が取り入れられ、変化していくそうです。
茶道では、華美にならずものごとの「自然なありのまま」を大切にしているのだとか。
たとえば、生け花。茶室にしつらえる生け花は曲げたり折ったりせず、野にあるごとく生けます。茶懐石の料理も同じ精神です。その季節の恵みを素材に、その持ち味を最大に活かす調理をするのだそうです。華やかで珍しい料理ではありませんが、丁寧にひかれたお出汁、吟味された旬の食材、熟練された料理人の技が、訪れるお客様を満足させるのだなと感じます。それは料理だけにとどまらず、床の間の掛け軸や生け花のテーマにも、手入れの行き届いた中庭や、落ち着いたトーンで響く「いらっしゃいませ」の言葉にも表れているように思います。
「茶懐石と聞くと、まず決まり事が多くて堅苦しいイメージを持つ方もおられるかもしれません。ですが、そんな難しいことはないいんですよ。お料理を楽しくおいしく召し上がっていただくのが、なによりのお作法です。茶箱弁当は茶懐石の入門編のようなもの。どうぞお気軽にお越しください」と社長の吉田幸次郎さんはおっしゃいます。
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